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2009年3月23日 (月)

他抜き?

さて前回は小さんの話でしたが、あれはあれでおしまいにしようと思ってたんですが、いや、終われないですね。あれから何回も小さんのCDを聞いてたら、なんつーんでしょうか、私はこの人とは相容れないのですよ。

まず「心邪なるもの、噺家になるべからず」のことですが、「邪(よこしま)」っていうのは“正しくない”とか“道に外れている”ということですね。この場合、いかなることを「正しい」とするのか、どのような行き方を「道」だと考えるのかによって、その「邪」の概念が違ってきます。
小さんは「剣道」という「道」を精進していました。
あのですね、私、中学に入ったときに剣道部に入ったんですよ。特に剣道がやりたかったわけじゃなくて、母親に「剣道とかカッコいいんじゃないの」とか言われて、そーかもしれないなぁ、っていうそれだけで入部したんです。で、実際に入部して先輩たちが目の前で試合してるのを見ていてですね、とても嫌な感じがしたんですね。
剣道って、あれね、人の隙をついて棒切れで殴りかかるというそれだけのことなんですよ。で、殴られたら痛いから仰々しい防具を付けてるのさ。あの防具がカッコいいという人もいるみたいですが、私にとっては“卑怯”以外のなんでもなかったですね。あれなら素手で殴り合ってるチンピラの喧嘩の方がよっぽどカッコいいんですよ、私にとっては。とてもイヤな感じが続いた私は何ヶ月かで辞めて、登山部(ワンダーフォーゲル)に入り、それが長く続くことになりました。
昔、現在の天皇が皇太子であった頃、皇太子が愛好していたテニスについて意見する者がいたらしいんですよ。「将来において天皇の座につく方が、相手の打てないところに球を打ち返すというような卑怯なスポーツをなさるというのはいかがなものか・・・」という論旨なのでありますね。まぁアゲアシ取りみたいな言い方ですが、でも間違ってはいないと思うんですなぁ。
剣道も相手の隙をうかがって、そこに打ち込んで、それが勝ちという「道」のようです。
小さんは色紙にも手ぬぐいにも「他抜」という字を書いてました。「他抜値入り(たぬきねいり)」で、「他者を抜いて、自分の価値を上げる」というんですね。剣道の達人であったこの人は、他者を抜くことで自分の価値(勝ち)を上げようとしていたようです。これが柳家小さんの「正しい」であり「道」なのであったとしたら、私にとってはまったく相容れないのですよ。

芸にしてもスポーツにしても、その上達にライバルの存在は欠かせないものでしょうが、芸における精進とはおのれの芸を磨くことであって、“他者を抜く”という目的を持って行われるべきことではないだろうと思うのですよ。結果としてそうなったとしても、それは目指すべき処ではないのではないかとね、思うんですよ。

小さんの落語には「あざとさ」がないんですが、それは「あざとさ」を芸として成り立たせるまでの力量がなかったというだけのことで、だからこそ「了見になりきる」というそれのみにしか方法を見出せなかった。そしてその結果があの実直な芸風になっていったのだろうと、『宿屋の仇討』を聞いていて思いましたね。

小さんの落語は私にとって“上手いけど、ぜんぜん面白くない”のでありますが、あれが人間国宝だというのなら、日本国の総論として“上手いけど、ぜんぜん面白くない”のが良しとされるわけで、日本人の多くはそういう人たちなのだろうなぁ、とか思うわけですよ。まぁ、国民投票で認定されているものではないですし、なんかワケわからんところで決まってしまうものらしいですけどもねぇ・・・。

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コメント

小さん落語の“テンポ”がいまいち好きになれませんです。
ゆったりし過ぎといいますか、まどろっこしくて。
一番好きな話は「試しに5升、飲んできた」っていうやつ(題名知らない)ですが。

大御所では絶頂期の米朝師が好きです。
大御所は、発展も冒険もせずがちがちに固まっていると思うのですが、それを好きになれるか否かだと思っています。


投稿: フクハラ | 2009年3月24日 (火) 07時50分

小さんのスピードはそんなに遅いわけじゃないんですが、あの口調と声質でノタノタしたテンポに感じてしまうんでしょうね。鈴木常吉さんが「なんか落語というよりは民話みたいだな、なんて思ってた」と言ってましたけど、そういうことなんですなぁ。

発展や冒険の末に芸が定まってきて「大御所」と呼ばれるんですけど、芸が固まっているのではないと思うんですよ。
聴き手のイメージを固定してしまわない因子を持っているのがホントの意味での”大御所”の芸じゃないでしょうか。

投稿: たなこすん | 2009年3月24日 (火) 09時41分

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